【連載】父ちゃん、シニアヨガに目覚める① 〜父ちゃんの小さな夢〜

さかたのりこです。

2017年の初秋の朝。ポスティングで訪れた立派なマンションで、10年ほど前の、父とのある懐かしい思い出がふと蘇ってきました。
当時建設中だったそのマンションは、私が「絶対に買ってやる!」と意気込んでいた、夢のお城。とは言ってもそれを買える現金があったわけではなく、ロト6が当たったらという、あくまで空想の中の笑い話。
 
 
西陽が差すダイニングテーブルで父と向き合って座り、鉛筆の芯がすぐに減ってしまうほどの力を込めて、マークシートの番号を慎重に選びながら、毎週決まった会話をしていました。

「当たったら、俺はビルを買って、商売やめる!家賃収入で豪勢に暮らすんだ(笑)お前は?」
「あそこに建つマンション買いたいよ!遊びに来ていいよ(笑)」
「ほんなら、4億当たったらお前に半分やるわ!」
「え!ホント!?なら私も4億当たったら、半分お父さんにやるわ!」
「ハハハハハ〜!」
「ハハハハ〜!」
 
 
幸せ探しをしていた父とのそんな時間こそが、今思えば最高の幸せだったなぁ…

ポスティングから帰ると、家の裏を掃き掃除する母と、隣でただ眺めている父がいました。もう商売をやめている父。今は別の幸せ探しを続けているんだろうか。試しに聞いてみたくなりました。

「お父さん、今ロトが当たったら、何したい?」
「ロト?もう俺は、何もいらねぇよ。お前のアレ買ってやるわ。汚なくて格好悪いぞ。」
 
 
 
父が目線を上にして指差したのは、私のスタジオのターポリン。言われてみれば確かに色褪せて雨ジミで汚れていました。
「でもこんなの1万円ちょっとだよ!もっと楽しいこと考えられないの?」

76歳。年老いてくると、夢も希望も欲望も、小さくなっていくものなのでしょうか。
もう戻らないのだと知った、ダイニングテーブルで咲かせたオレンジ色の時間と、私の仕事が上手くいって欲しいが故の小さな気遣いに、ウルルと鼻を赤くしたその日の夜。

父が救急車で運ばれることになったのです。
 
 
つづく
 
シニアヨガ指導者養成講座

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